【必見】YouTube広告「年間単価変動」を徹底分析で紐解く!賢い広告予算マネジメントのための戦略的プランニング術
- 執筆者:
- 岡野 凜一
「YouTube広告の予算を、毎月『いつものまま』で組んでいませんか?」
もしそうなら、それは大きな機会損失につながっているかもしれません。デジタルマーケティングの世界では、常にデータに基づいた意思決定が求められます。特にYouTubeのような巨大プラットフォームでは、広告コストが年間を通じてどのように変動するかを理解することが、予算の最適化、ひいては広告投資のROI(費用対効果)最大化のカギとなります。
「なぜか年末になるとYouTube広告の単価が高くなる」「3月は広告費の動きが読めない」――。私たちHakuhodo DY ONEのブランドR&Dチームには、日頃からこのようなご相談が寄せられます。これまでの常識として語られてきたYouTube広告の「単価変動」や「シーズナリティ」は、多くの広告運用担当者にとって、明確な根拠が見えにくい「ブラックボックス」の側面がありました。
そこで、当社では、長年の運用実績に基づき、YouTube広告のCPM(1,000回表示あたりの費用)とCPV(1回視聴あたりの費用)の年間変動傾向を詳細に分析しました。その結果、これまで経験的に語られてきた「シーズナリティ」の様相が、データによって明確に浮き彫りになりました。
本記事では、この研究結果を基に、YouTube広告の年間コスト変動の「メカニズム」をひも解きます。そして、データに基づいた広告予算マネジメントのための実践的なインサイトと戦略的プランニング術をお届けします。
データが示すYouTube広告の「年間単価変動」の傾向
本分析では、主にGoogle広告およびDV360における運用型広告(予約型広告は除く)の過去3年間(2022年度~2024年度)にわたるデータを用いました。その結果、シーズナリティの影響により、特定の月に共通して単価上昇が見られることが確認されました。
具体的には、YouTube広告のCPMおよびCPVにおいて、以下の時期に一貫して上昇傾向が見られました。※なおレポート上の観点によりCPVは視聴目的のキャンペーンのみ集計
- CPM:11月と12月に約10%程度、3月に約5%程度の上昇傾向
- CPV:11月に約5%程度、12月と3月に約10%程度の上昇傾向
ただし、これらの数値はあくまで全体的な傾向を示すものであり、業種や商材、キャンペーン設定などによって実際の変動幅は異なります。
図1:【当社データ】過去3年度(2022年度~2024年度)月別CPM指数変動傾向 ※年間平均を100%とした各月の変動率
図2:【当社データ】過去3年度(2022年度~2024年度)月別CPV指数変動傾向 ※年間平均を100%とした各月の変動率
これらの単価上昇が見られる時期は、まさに「年末商戦」と「年度末」の繁忙期に当たります。特に11月は、近年日本でも急速に規模を拡大しているブラックフライデーやサイバーマンデーなどの大型商戦が集中するため、多くの広告主がこの時期に広告予算を投下します。その結果、広告オークションの競争が激化し、単価上昇に繋がると考えられます。これはまるで、お目当ての商品を求めて多くの人が一斉にショッピングモールに押し寄せ、熱気が高まるようなものです。
このように、YouTube広告の単価変動は単なる競争激化という現象ではなく、市場の需要と供給によって動く明確な市場原理が背景にあることが、データによって裏付けられています。
デバイスやキャンペーン目的による単価変動の傾向と特性
興味深いことに、CPMおよびCPVの変動傾向は、PC、スマートフォン、タブレット、テレビといったデバイスの種類によって大きな違いは見られませんでした。

図3:【当社データ】2024年度 デバイス別 月別CPM変動傾向

図4:【当社データ】2024年度 デバイス別 月別CPV変動傾向
これらのグラフが示す通り、どのデバイスにおいても年間を通じての共通の傾向が確認されています。これは、YouTubeがマルチデバイスで利用されるプラットフォームであり、ユーザーがデバイスを跨いでシームレスに利用していることを示唆しています。
一方で、CPMの変動傾向においてキャンペーンの目的別に見た場合、CV(コンバージョン)目的のキャンペーンでは、他のリーチ目的や視聴目的のキャンペーンとは異なる傾向を示すことがわかりました。

図5:【当社データ】2024年度 キャンペーン目的別 月別CPM変動傾向
CV目的のキャンペーンは、多くの場合、増分CPA(顧客獲得単価)などの指標で追加投資が判断されます。そのため、需要期においても出稿が強化されにくいケースがあり、結果としてシーズナリティによる単価上昇が相対的に起きにくいと推察されます。これは、成果を重視する運用型広告ならではの特性と言えるでしょう。
このことから、単に広告費が高騰するからとキャンペーンを停止するのではなく、目的と評価指標に応じて戦略を柔軟に調整する視点が極めて重要であると言えます。
日別データで捉える、さらに精緻な単価変動の波
月次の変動だけでなく、さらに細かく「日別」のデータを見ると、より戦略的な示唆が得られます。
- 12月:クリスマス前の21日〜23日頃をピークに配信コストが上昇し、CPM/CPVもそれに合わせて上昇します。その後、年末に向けては配信コストが縮小し、それに伴いCPM/CPVも低下傾向に転じます。
- 3月:月の中旬から下旬にかけて、CPM/CPVが徐々に上昇する傾向が見られました。
12月の動きは、クリスマス商戦や年末年始セールに向けた競争激化、そして年末休暇による広告出稿の落ち着きを反映していると考えられます。一方、3月の動きは、事業年度末における広告投資の活発化や新生活準備需要など、日本独自の商習慣が色濃く影響していると言えるでしょう。
これらの日別の傾向は、短期間での予算配分や入札戦略を検討する上で、非常に重要な情報となります。例えば、ピークが明確な数日に集中する12月の動きを踏まえれば、特定の期間に予算を集中投下したり、あるいは単価が落ち着くタイミングを狙って広告を強化したりする、といった戦術的な調整が可能となるでしょう。
当社だけではない、普遍的な傾向
今回の分析結果は、当社が運用するGoogle広告およびDV360のデータそれぞれで同様の傾向が確認されました。 加えて、外部の多様なデータソースからも同様の傾向が示唆されており、YouTube広告のシーズナリティが特定のプラットフォームや当社だけの傾向ではなく、市場全体の動きとして捉えるべき普遍的な現象であることを強く示唆しています。
つまり、個別の要因にのみ囚われず、このシーズナリティを市場の基盤的な動きとして理解し、自身の広告戦略に組み込むことが求められるのです。この普遍的な傾向を把握することは、YouTube広告だけでなく、他のデジタル広告戦略を考える上でも重要な視点となるでしょう。
賢い広告予算マネジメントのための戦略的プランニング術
本分析結果から得られる最も重要なメッセージは、「YouTube広告の予算配分は、年間を通じて均一で良いわけではない」ということです。そして、「単価が高騰するからといって、必ずしも予算を厚くすれば良い」という単純な話でもありません。
重要なのは、データに基づいた「意識的なプランニング」です。ここでは、賢い予算マネジメントのための4つの戦略的アプローチを提案します。
① 市場のシーズナリティを理解する
まず、11月、12月、3月といった特定の時期に単価が上昇する傾向があることをデータとして認識することが第一歩です。この「いつ」「なぜ」を理解することで、単価変動に対する準備と計画が可能になります。
② 目的とROI/ROASを明確にする
キャンペーンの目的(認知拡大、リード獲得、売上向上など)と、それに紐づく目標ROI(投資対効果)やROAS(広告費用対効果)を常に明確にしておきましょう。単価高騰期に投下する予算が、許容できる範囲の費用対効果をもたらすかどうかを判断する基準を持つことが不可欠です。
③ 柔軟な予算配分戦略を立てる
単価高騰期には、以下の複数のシナリオを検討し、自社の目標や状況に合わせて柔軟に選択できるよう、事前に戦略を立てておくことが賢明です。
「攻める」戦略:予算を厚くする
単価が上がっても、それに見合うだけの高い成果(例:ブランドリフト、高LTV顧客の獲得)が見込める場合、あるいは競合にシェアを奪われたくない場合は、予算を増額して積極的に露出を確保します。例えば、新商品のローンチや、競合との競争が激しい市場で優位なポジションを確立したい場合などがこれに該当します。
「最適化する」戦略:予算配分を調整する
単価高騰が費用対効果を著しく悪化させるリスクがある場合、無理な競争に追随せず、予算配分を調整し、効率的な利用に注力します。例えば、その予算を、比較的単価が落ち着いている時期に投下したり、費用対効果の高い他の広告チャネルやプロモーション手法に戦略的に振り向けたりすることも有効な選択肢です。
「効率を維持する」戦略:運用を徹底する
予算は変えずに、入札戦略の見直し(上限設定など)、ターゲットの最適化、クリエイティブの改善などを通じて、限られた予算の中で最大限の効率を追求します。例えば、A/Bテストを繰り返してクリエイティブの反応率を向上させる、あるいはターゲティングをより精密化し無駄な配信を徹底的に排除するなど、運用精度を常に高めることに注力します。
④ クリエイティブとメッセージングの最適化
シーズナルなイベントに合わせて、ターゲットの関心が高まるテーマに合わせたクリエイティブやメッセージを事前に準備しましょう。年末年始なら「特別な時間」「一年を締めくくる」といった文脈、年度末なら「新生活」「新たなスタート」といった文脈での訴求は、単価が高騰してもエンゲージメントを高め、費用対効果の改善に貢献する可能性があります。
まとめ
YouTube広告は、デジタルマーケティングにおいて不可欠な存在です。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、データに基づいた深い洞察と、それに対応する柔軟な戦略が求められます。
本記事でご紹介したHakuhodo DY ONEの研究は、これまで感覚的に捉えられがちだったYouTube広告の「年間単価変動」に明確な根拠を与え、そのメカニズムを解き明かすものです。
今回の分析が、皆様のYouTube広告運用の一助となれば幸いです。YouTube広告の年間予算戦略について、より詳細な分析や具体的な施策立案にご興味がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
この記事の著者
岡野 凜一
2019年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(現 Hakuhodo DY ONE)へ入社。運用型広告の専門家として、大手キャリアを含む大型クライアント案件のリーダーを務める傍ら、Google 広告プロダクトの社内推進プロジェクトにも尽力。現在はプラットフォームR&D本部 ブランドR&D局にて、YouTubeをはじめとするブランディング広告の推奨設計を研究。その成果を当社独自のベストプラクティスとして確立し、顧客ビジネスの成長に貢献できるような知見を発信している。
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