AIは個人の発想を拡げても、組織の発想は均質化しているかもしれない。 ー組織におけるAI活用術【第13回】
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- JAAA REPORTS
AIと描く未来、働き方と組織の固定概念を変革し共に成長する物語。その先駆者となるマーケティング領域での実践的アプローチを、具体的な活用事例から探る。
※本記事は2026年4月10日にJAAA REPORTSに掲載された記事を転載しております
元記事:https://jaaareports.jaaa.ne.jp/post/ai13
マーケティング組織にとって、クリエイティビティ(創造性)は生命線だ。生活者のインサイトを捉え、誰も見たことのない価値を提示し続けるには、常に組織の発想力を高く保たねばならない。
本連載では第9回(※1)で、AIとの共創が組織のアイデアを均質化させるリスクについて論じたことがある。ワークショップで参加者のアイデアの8割が同じ結論に収斂した体験をもとに、「思考の均質化」というディストピアを提起した。今回からは、AI×組織×創造性に関する実証研究を取り上げながら、この問題の構造を深掘りし、読者の皆さんと一緒に考えていければと思っている。
その1回目として、示唆的な研究を紹介したい。
生成AIは人間の発想を均質化するのか?
2024年に発表された、Andersonらによる研究がある(※2)。彼らが立てた問いは極めてシンプルである。「生成AIをアイデア出しのツールとして使うと、人間の発想は本当に均質化するのか?」。
実験では33名の参加者に、AIツールを使う条件と、従来のアナログな発想法(思考を刺激するカード)を使う条件の二つに分け、創造力を問う課題(例:「ぬいぐるみをもっと楽しくするには?」など)に取り組んでもらった。
集まった1200以上のアイデアを、最新の言語分析技術を使って「どれくらい似ているか」を数値化した。ここから、ビジネスの現場にも直結する思いがけない構造が浮かび上がる。
個人の錯覚と組織の均質化、そして当事者意識の喪失
結果は、一見すると矛盾しているように見える。
まず、AIツールを使った場合、グループ全体で見ると、異なる参加者が出したアイデアは明らかに似通ってしまっていた。つまり、懸念していた「組織レベルでの均質化」は確かに起きていたのだ。
だが、驚くべきは次だ。一人の人間の中に着目する「個人レベル」では、発想の幅は全く狭まっていなかった。それどころか、AIを使った方がアイデアの数も増え、ジャンルも広がり、内容も詳細になっていたのだ。
この二つの事実が意味するものは何か。それは、「個人はAIの力を借りて、自分なりに多様なアイデアを出せていると"錯覚"しているが、実は他の人もAIから似たような助言を受けており、結果として集団全体では同じような答えに行き着いている」という構造だ。
図1は、参加者全員が出したアイデアについて、他の人のアイデアと「どれくらい違っていたか」を示したものだ。左側の赤いグラフは従来のOblique Strategies Deckというアナログな発想法(人間のみでの作業)を使った結果、右側の青いグラフはAIツールを使った結果を表している 。縦軸の値が低いほど、他の人と似たようなアイデアを出していることを意味する。
図1. 組織レベルでの発想の多様性(出典:Anderson et al. , 2024)
一方で、こちらの図は一人の参加者が出した複数のアイデア間で、「どれくらい発想の幅があったか」を示している 。
図2. 個人レベルでの発想の多様性(出典:Anderson et al. , 2024)
さらに、注目すべきデータがある。AIを使った参加者は、自分が生み出したアイデアに対する「当事者意識(責任感)」が低下し、AIの手柄だと感じる傾向が強かったのだ。
生み出されたアイデアに対して、参加者が「どれくらい自分自身に責任がある(自分が考えた)と感じているか」を100点満点で数値化したものである。
図3. アイデアに対する当事者意識(責任感)(出典:Anderson et al. , 2024)
論文のインタビュー調査では、ある参加者が「これは創造性の課題なのに、自分自身の関与がないように感じた」と語っている。人間側がアイデア生成のプロセスから心理的に離脱してしまっているのだ。別の参加者の「AIツールおかげで脳のスイッチを切ることができた。重い作業はやってくれた」という言葉がそれを如実に物語っている。本人は生産性が上がったと満足している裏側で、グループとしての多様性は失われていたのである。
組織設計への示唆:どのレイヤーで問題を捉えるか
この研究結果が我々に突きつけているのは、どのレイヤーで問題を捉えるかという論点だと思う。
もし均質化が個人レベルで起きているなら、対策は個人のスキルアップや意識改革になる。「AIの出力を鵜呑みにするな」「批判的思考を持て」と呼びかければよい。だが、この研究が示しているのは、個人レベルでは創造性が失われていない可能性があるということだ。個々人はちゃんと多様に考えている。問題は、それが集団として束ねられたときに多様性が消えるという構造にある。
だとすると、考えるべきは個人の能力開発ではなく、集団としての仕事の仕方だ。会議のあり方、チームのフォーメーション、アイデアを集約するプロセス。そうした、組織の仕事の仕方やフォーメーションを設計するレイヤーにいる人が、この論点と向き合う必要があるのかもしれない。個々の従業員に「気をつけろ」と注意喚起しても、この問題にはおそらく届かないのだ。
だから、難しいのだ。この連載では、今後さらにAIが創造性に与える影響の構造を掘り下げていく予定だ。
私たちが、創造性を失わないために。この問題に皆さんと本気で向き合っていきたい。
<出典情報>
※1 中原柊「組織におけるAI活用術」JAAA REPORTS(https://jaaareports.jaaa.ne.jp/category/ai)。特に第9回「組織の思考が均質化する『AIディストピア時代』に抗え」(https://oneder.hakuhodody-one.co.jp/blog/jaaareports-ai-09)
※2 Anderson,B.R., Shah, J.H., & Kreminski, M. (2024). "Homogenization Effects ofLarge Language Models on Human Creative Ideation." C&C '24.
この記事の著者
JAAA REPORTS
JAAA REPORTSでは、日本広告業協会(Japan Advertising Agencies Association)からの情報を発信しています。広告ビジネスに関する最新動向やトピックス、協会の多岐にわたる事業活動などをお届けします。
中原 柊
大手コンサルティングファーム、法人向けSaaSスタートアップを経て、2023年にアイレップに参画。メディア/Webサービス/通信/エネルギー業界を中心に、DX企画、CX改革、事業戦略、販促領域などに携わる。DX部門において機械学習系スタートアップとの協業やメディアでの情報発信等にも従事。その後、社内最速でマネージャーに昇進。SaaSスタートアップでは、法人向け動画制作クラウドソリューションのカスタマーサクセス部長 兼 DXコンサルティンググループとして、カスタマーサクセスの戦略からオペレーション構築を通し、契約更新率の大幅改善を達成。また、新規プロダクトの立ち上げ等を主導。ChatGPTをはじめとしたジェネレーティブAIの社内オペレーション組み込みを力強く推進し、外部セミナー等において情報発信活動にも携わる。主な著書に『DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)がある。
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