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究極のパーソナライゼーションは実現できるか Hakuhodo DY ONE「ONE-AIGENT」×メルカリに見るマーケティング実装最前線

執筆者
ONEDER編集部
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「AIを使う」フェーズは終わった。これからは「AIとAIが連携(A2A)して動く」時代だ。AIエージェントは、マーケティングをどこまで変えられるのか。Hakuhodo DY ONEは、AIを単なる効率化ツールではなく、一人ひとりに最適なコミュニケーションを届けるための新たなマーケティング基盤と位置づけ、「ONE-AIGENT」という構想を打ち出してきた。その実装例として取り組んだのが、メルカリとのAgent to Agent、Zero Data Sharingの実践だ。理論を実際のマーケティングプロセスに落とし込むことで何が見えてきたのか。Hakuhodo DY ONE柴山氏と、株式会社メルカリ Marketing Manager/AI Marketing Lead石渡貴大氏が、AIエージェント時代のマーケティングのリアルを語り合う。

 「日経ビジネス電子版Special」2026年3月11日に公開
掲載された広告から抜粋したものです。禁無断転載©日経BP

究極のパーソナライゼーションを
理想論で終わらせないために

石渡 AIエージェント時代が本格化する今、メルカリのマーケティングチームとして掲げているのは、「究極のパーソナライゼーションの実現」です。今までは、どうしても「このセグメントにはこのコミュニケーション」というやり方が主流でしたが、突き詰めればすべてのお客様一人ひとりに異なる最適化されたメッセージを送ることも可能なはずです。

ただ、広告出稿や外部メディア、オフライン施策など、メルカリのアプリ外での活動では、媒体側の機能に制約があり、一人ひとりに異なる表現を出しわけるのは、まだ現実的でない部分もありますが、できる限り対応していきたいと思っています。

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石渡 貴大 氏
デジタル広告代理店、Gunosy、マーケティング支援事業スタートアップを経て、メルカリに入社。Marketing Managerとしてデジタルマーケティング、マスマーケティング、大型キャンペーンを担当。また、2025年に発足したAIタスクフォースでは、社内のマーケター向けにAI活用をリードする立場を担う。

 

柴山 私たちが考えていることも、「広告とは誰に、どんな商品・サービスのメッセージをどのような内容で届けるのか」という点ですから、メルカリ様が実現したい世界は、我々としても共感します。一人ひとりにすべてのメッセージを個別に届けるには多くのハードルがあるからこそ、AIを活用することで我々が支援できる余地は大きいと考えています。

石渡 その理想を実務として前に進めるにあたって、まず前提としてあったのが、メルカリとしての「AIネイティブ宣言」でした。2025年7月に、マーケティングに限らず全職種・全社員を対象に、業務そのものをAI前提で見直していこうという方針を打ち出しています。その流れの中で、私たちデジタルマーケティングを担うチームとしても、「デジタルマーケティングにおけるAIネイティブとは何か」を改めて考える必要がありました。

検討を進める中で、データ活用とクリエイティブ制作という大きく二つのテーマがあると感じていました。クリエイティブ制作については、インハウスで画像生成や動画生成などの実験を重ねてきましたが、AIが生成したものをそのまま最終アウトプットとして出すには、クオリティやリーガル、ブランドガイドラインの観点からまだ難しさがあります。どうしても人の手によるチェックと調整が必要な状況で、内製だけで回し切ることには限界があると感じました。

加えて、アウトプットの質を高めていくには、やはりクリエイティブやデザインの専門性が欠かせません。高価なカメラを使えば誰でもプロのカメラマンのような写真が撮れるわけではないのと同じで、これまで広告会社さんの中で培われてきたノウハウやナレッジにAIの力を掛け合わせてこそ、より高度なアウトプットが実現できる。そうした問題意識が今回の取り組みにつながりました。

Agent to Agentで一人ひとりに向き合う

柴山 今お話しいただいた、「究極のパーソナライゼーション」は今日この瞬間にすべて実現できるものではありません。「今できる・できない」で線を引くのではなく、AIエージェントが本当に機能したときに実現し得る世界を、今から設計していくことでした。

部分的な効率化ではなく、AIエージェントが前提になったとき、マーケティングの意思決定や実行の構造そのものをどう組み替えるか。その検証として、ONE-AIGENTの中核であるAgent to AgentやZero Data Sharingを、メルカリ様と先行的に取り組ませていただいています。

Z9F_1096株式会社Hakuhodo DY ONE常務執行役員 
柴山 大 氏
2019年、negocia株式会社と株式会社アイレップの資本業務提携に伴い、アイレップにてテクノロジー領域全般を統括。2022年よりアイレップ取締役CTOおよび株式会社博報堂テクノロジーズ執行役員を兼任し博報堂DYグループにおけるAI開発を主導。2025年より株式会社Hakuhodo DY ONE常務執行役員としてデジタル広告の領域を総合的にリードしている。

 

石渡 メルカリの月間アクティブユーザーは2300万人以上います。その一人ひとりに対して、本当に最適なコミュニケーションを考えようとすると、仮に一人あたり複数パターンを検討するだけでも、数千万単位のクリエイティブが必要になる可能性があります。それを人の手だけで作れるかといえば、現実的ではありません。時間的にもコスト的にも見合わないですし、オペレーションとしても回りません。

だからこそ、「究極のパーソナライゼーション」を実現するのであれば、AIエージェントの力を借りることは前提になる。人がゼロからすべてを作るのではなく、AIが生成・提案し、その上で人が判断する構造に変えていく必要があると考えています。今は、その構造をどう実装するかを検証している段階です。

柴山 例えば、サッカーが好きで、サインボールやユニフォームを集めているユーザーがいるとします。その方に対して「実はメルカリには、こういう商品もある」と伝えるために外部広告も活用していただいています。その際に重要になるのが「その人はどんな商品を求めていて、どんなメッセージが刺さるのか」という点です。これをメルカリ様が持っているアプリ内での行動データや購買履歴をもとに、「サッカーを求めている人にはこういう特性があるのではないか」という仮説をAIエージェントが導き出すことで、一人ひとりにより刺さるメッセージやクリエイティブの要素を導き出せるのではないかと考えています。

そのメッセージを元に、当社のクリエイティブエージェントが連動しながらクリエイティブを自動生成していきます。もちろん、今は生成したものをそのまま配信するわけではありませんが、スコープとしては景表法やブランドレギュレーションに沿っているかというチェックを、当社が持っているエージェントやメルカリ様が持っているブランドチェックエージェントが行い、最終的に全部自動でまわって、数千万人、1億人という方々一人ひとりに異なる最適化されたメッセージを届ける、という世界を目指して取り組んでいます。

企業間でデータを安全に扱う
Zero Data Sharing

石渡 ただ、そこでもう一つ重要なのが「それだけの連携をどうやって安全に実現するか、データをどう扱うか」という問題も出てきます。

柴山 そうですね。広告会社としては、生活者に関するデータを多く持っています。また、メルカリ様のようなプラットフォーム企業が持つ一次データは、マーケティングにおいて非常に価値が高いものですが、メルカリの中でどんな商品が流通していてなどの事業コアとなるデータや個人情報はそのまま外に渡すわけにはいかない。企業間でデータを扱う以上、プライバシーやガバナンスの課題は避けて通れません。そこで、メルカリ様の膨大なローデータの中から、あくまでマーケティングに必要な分析結果だけを我々が受け取ることができるようにするのが、「Zero Data Sharing」です。目的はユーザーの行動特性を知るためなので、ローデータそのものは共有せず、メルカリ様側のAIエージェントがデータを読み解いてマーケティングに必要な分析結果や意味だけをHakuhodo DY ONE側のAIエージェントに渡します。

この工程を人が手作業で行うと、どうしても週次や月次のスパンが発生し、分析のバリエーションも限られるなど人間の限界がボトルネックとなってしまいますが、AIエージェントであれば、その頻度や切り口を一気に増やすことができます。

石渡 従来は、データ連携やクリエイティブ制作の制約を、ある意味「仕方ないもの」として受け入れていた部分もあったと思います。ただ、AIの登場によって、こういったボトルネックを突破できる可能性が見えてきました。そこが今回、大きな転換点だと感じています。取引アイテムや出品者・購入者の動向データを個人情報に配慮した形で加工してHakuhodo DY ONE様に渡し、メルカリ内のトレンド把握やクリエイティブ制作に活用していただいています。加えて、Hakuhodo DY ONE様が持つSNSトレンドや生活者データと掛け合わせることで、より広い文脈での示唆が得られることを期待しています。

小さな兆しを見逃さない
メルカリで見えた実装の手応え

石渡 実際の運用では、いきなりすべてを自動化するのではなく、検証しやすい領域から構造を組み替えていく形です。例えばクリエイティブ制作においても、完成物を一気に仕上げるのではなく、コンテやVコンの段階で一度方向性を確認するプロセスを入れています。早い段階でズレを修正できるので結果的にスピードが上がりました。

実際に取り組んでみて、一番変わったと感じているのは「スピードや表現の幅」です。これまでは、人の目で見られるデータ量に限界がありました。取引量の多いものは見えても、小さな兆しにはなかなか気づけませんでした。

例えば、「成人式の前後で袴の取引が増える」という動きです。全体から見ると小さなトレンドなので、従来であれば気づきにくく仮に気づいたとしても「賞味期限が短いし、わざわざクリエイティブを作るほどではない」と判断していたと思います。でも、AIエージェントによる分析と制作のハードルが下がることで、そうした短命なインサイトにも向き合えるようになりました。これは、パーソナライゼーションに一歩近づいた感覚があります。

img_sampleメルカリに提供しているONE-AIGENTの画面。オーケストレーターが与件を読み込みプランニングし、動画を生成する様子

AIによる自動化と高度化で
刺さる広告を

石渡 メルカリとして次に挑戦したいのは、AIでどこまで自動化と高度化を進められるかです。人の目や手が多く残ると結局そこがボトルネックになります。まずは人手を極力介さず回る状態を目指しつつ、単なる効率化ではなく、より質の高いクリエイティブによって獲得効率そのものを上げる段階に進みたいと考えています。

柴山 Agent to Agentが実装されると、広告主にも広告会社にも「手数」という武器が生まれます。自動化によりただ単純に広告費や制作費を下げるという話ではなく、個人に最適化されたより刺さる広告で反応率を上げ、結果として広告費が圧縮され、その浮いた余力をこれまで届かなかった潜在層への新しい打ち手に回すといったような手数を増やすことで、出会うことのできるユーザーの幅の拡大などが期待できます。

広告が嫌われるとしたら、それは精度が低く、押し付けになりやすいオペレーションが存在してしまうからです。生活者にとって必要のない情報を減らし、広告主にとっても無駄打ちを減らしていく。広告を「アド」ではなく「インフォメーション」に変える。広告主の成果と生活者の納得を両立する「うれしい広告」を実現できなければ、マーケティングの未来はないと思っています。

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