本文にスキップする

「生成AIコンテンツを公開する前に、企業が決めておくべき三つのルール」#05

執筆者
藤井 正則
この記事は約1分で読めます

生成AIは、広告、マーケティング、制作の現場に急速に浸透しています。 
コピーの初稿を作る。SNS投稿文の候補を増やす。画像や動画の方向性を検討する。記事やランディングページの構成を組み立てる。こうした工程に生成AIを取り入れることは、すでに特別な試みではありません。 
利用が広がるほど、企業には「どのように使い、どこまで人が確認するのか」を明確にすることが求められます。企業名義でコンテンツを公開する以上、どのような過程で制作し、誰が確認し、どのような判断を経て公表したのかを説明できる体制が必要です。 
 
前回の記事では、広告表現をどこまで生成AIで自動化できるのかというテーマを取り上げました。今回はその実務編として、生成AIコンテンツを公開する前に、企業が定めておくべきルールを三つの観点から整理します。

どの工程で生成AIを使うのかを決める 

生成AIを業務に導入する際は、まず利用するツールの規約、安全性、情報管理の条件を確認します。その上で、制作プロセスのどの工程に組み込むかを定めます。
生成AIを活用しやすい工程としては、次のようなものがあります。

  • コピーや見出しの初稿を作る
  • SNS投稿文の候補を増やす
  • 記事やランディングページの構成案を作る
  • FAQや想定問答の原案を作る
  • 表現の言い換え案を提示する
  • 画像や動画の企画方向を検討する

これらの工程では、検討の速度を上げ、選択肢を広げることができます。ただし、ブランドのトーン&マナー、生活者に与える印象、広告表示としての妥当性、第三者の権利、媒体基準、クライアント企業とのAI利用に関する合意など、公開する表現の採否は、総合的に確認した上で、人が判断しなければなりません。 
企業としては、少なくとも、以下の4点を整理しておくとよいでしょう。

  • どの工程で生成AIを使うのか
  • 生成物を社内検討用に限定するのか
  • 公開用素材としての利用を認めるのか
  • 人による修正や確認を必須とするのか 

このほか、使用制限についても整理が必要です。 
 
実在の人物、著名人、既存キャラクターを想起させる生成をどこまで認めるのか。機密情報や個人情報の入力をどのように防ぐのか。利用を認めるツールと禁止するツールをどう定めるのか。クライアント企業の事前承認が必要な場合、誰が確認するのか。第三者の広告、写真、イラスト、Webサイトなどを参照画像として入力してよいのか。 
 
これらの判断を制作現場だけに委ねるのではなく、企業として基準を設定し、共有しておく必要があります。また、生成物の二次利用についても、別媒体への転用、他案件への流用、販売や配布、利用期間、利用地域などの基準を定める必要があります。
 
社内での基準が共有されていなければ、担当者によって解釈や対応にばらつきが生じます。その結果、社内検討用の画像が外部資料に転用される、案件によってクライアント企業確認の要否が変わる、公開後に使用したツールや制作過程を説明できないなどの事態が起こり得るのです。

「些細な見落とし」が重大な問題につながるケース

こうした問題が、実際の制作現場でどのように起きるのかを、一つの事例を通して見てみましょう。特別な状況ではなく、「これくらいなら大丈夫だろう」という判断が積み重なった結果として起きた事例です。

【実際にあったケース】

ある広告制作の現場で、バナーの背景にプログラミングコード風の表現を加えるため、Webサイト上で見つけた第三者の広告画像を、生成AIの参照画像として入力しました。担当者の意図は、広告全体を流用することではなく、ITらしい雰囲気を参考にすることでした。しかし、生成された画像には、元の広告に記載されていた実在の組織名や紹介文が、コード風の背景文字として残っていました。
制作担当者とディレクターは、背景部分を意味のない装飾と捉え、文字の内容まで確認しないまま、クライアント企業への確認工程に進めました。最終的には配信前に発見されましたが、クライアント企業からの指摘がなかったとしたら、重大な問題につながってしまったことでしょう。

【何が問題だったのか】

本件の背景には、生成AIを使用することの意味について、制作担当者・ディレクター・パートナー企業の間で十分な理解が共有されていなかったという問題があります。生成AIは、第三者の広告や作品を入力すれば、その特徴だけを抽出し、権利上も内容上も安全な素材へ自動的に変換してくれるものではありません。参照素材の出所や利用条件、そして生成結果に意図しない要素が含まれていないかを、利用者自身で確認することが不可欠です。

本事例における問題の核心は、品質管理の失敗にあります。
実際には未配信であったとしても、無関係な第三者の情報を含む広告案をクライアント企業へ提出し、そのミスをクライアント企業の指摘によって初めて発見されたことは、品質管理における重大な問題として受け止めるべき事態です。
これは、AIが偶然、他社の情報を作り出した事例ではありません。人が入力した画像に含まれていた情報が、生成物にそのまま引き継がれたものです。

【この事例から伝えたいこと】

この事例から伝えたいことは、以下の三点です。

まず、確認範囲を「目立つ要素」に限定しないこと。
確認すべき対象は、コピーや人物・構図だけではありません。背景の文字、外国語、コード、ロゴ、透かし、標識、画面表示なども、完成物に含まれる以上、すべて確認の対象です。内容を理解できない要素が残った状態で、外部へ提出してはなりません。

次に、個人のミスとして処理せず、組織の問題として捉え直すこと。
「参考として入力するだけなら問題ない」「AIが別の表現に変えてくれる」「背景の文字は読まなくてもよい」といった認識が現場に残っていれば、同様の問題は別の案件でも繰り返されます。根本的な問題は、入力・生成・デザイン調整・外部提出の各段階で、誰が何を確認するのかが定められていなかった点にあります。

最後に、工程ごとの確認責任者を明確にすること。 
生成AIを使う工程と、公開素材として利用できる範囲を定めた上で、それぞれの段階で判断を行う担当者を明確にする必要があります。

誰が確認し、誰が最終判断をおこなうのかを決める 

生成AIコンテンツは、文章や画像として整って見えることがあります。だからこそ、見た目の完成度だけで判断しないことが重要です。
 事実と異なる情報、不自然な画像表現、ブランドとのずれ、第三者の権利に関わる要素が含まれていないか。公開前には、内容と制作過程の両面から確認する必要があります。
企業がコンテンツを公開する際に確認すべき事項は多岐にわたり、少なくとも以下の観点が求められます。

カテゴリ 確認事項

広告法規

景品表示法上、生活者に誤認を与える表現になっていないか

業界規制

薬機法・医療広告のルールに照らして認められる表現か

第三者の権利

著作権・商標権・肖像権などを侵害していないか

類似性

既存の広告・作品・キャラクターと不適切に類似していないか

ブランド整合性

ブランドの価値観・トーン&マナーに合っているか

媒体基準

媒体審査・プラットフォームの掲載基準を満たしているか

情報の正確性

事実と異なる情報(ハルシネーション)が含まれていないか

生成物の混入

背景・装飾部分に意図しない文字・名称・ロゴが残っていないか

 

特に深刻なのは、誤りや情報の混入を誰も検証しないまま公開に至る場合です。そのため、確認体制では、制作担当者、ディレクター、法務、広報、ブランド管理、最終承認者の役割を分け、誰がどの段階で何を確認するのかを明確にします。 
 
たとえば、制作担当者は入力素材と生成結果を確認する。ディレクターは表現全体とブランドとの整合性を確認する。法務は権利や広告規制を確認する。最終責任者は、それらの確認をふまえて公開の可否を判断する。 
 
このように、あらかじめ工程ごとの役割を定めておけば、判断が特定の担当者だけに集中することを防ぐことができます。また、パートナー企業や外部の制作会社に委託する際にも、企業の説明責任まで外部へ移るわけではありません。委託企業で生成AIを使用する場合には、自社と同じ基準を適用する必要があります。 
どのツールを使ったのか。何を入力したのか。生成物をどのように確認したのか。委託先を含めて説明できる制作体制を整えておく必要があります。 

生成AIを使用した場合の説明方針を定める 

生成AIコンテンツを公開する場合は、生成AIを利用した事実や制作過程について、どの範囲まで説明するのかをあらかじめ定めておく必要があります。 
 まず、生成AIを使用したことを明示するのか、明示する場合はどのような方法を採るのかを整理します。 
 同時に、次のような情報を制作現場で記録しておくことも重要です。 

01_生成AIコンテンツを公開する前に、企業が決めておくべき三つのルール
すべての案件で同じ記録を残す必要はありません。コンテンツの内容、公開範囲、生活者への影響、契約条件などをふまえ、保存する情報と期間を決めておくことが重要です。 なお、生成AIの利用について説明を求められる場面としては、次のようなものがあります。 

問い合わせ元 求められる説明の内容 主な確認・対応の観点

クライアント企業

AIの使用有無、使用したツールや工程

事前合意の有無、契約条件との整合性

媒体社

制作過程、素材の出所

掲載基準・審査ルールへの適合性

生活者

AI生成の有無、人による確認の有無

表示の透明性、誤認を与えていないか

権利者・第三者

参照素材の使用状況、生成物との類似性

著作権・商標権・肖像権の侵害有無

権利者・第三者

意図しない情報混入の経緯、発見の経緯

入力素材の確認体制、再発防止策

社会・メディア

表現の選定根拠、承認プロセス

広告法規への適合性、ブランドへの影響

 

広告、記事、SNS投稿、商品ビジュアル、社内資料では、説明の必要性や方法も異なります。媒体の性質、表現内容、生活者への影響、契約条件をふまえ、説明する範囲を判断しなければなりません。

参照画像・プロンプト・生成結果・修正履歴が保存されていなければ、後から原因を検証することは困難になります。制作過程の記録は、責任追及のためだけでなく、問題発生時に事実関係・影響範囲を迅速に把握し適切な対応につなげるために必要なものです。

結論:生成AIの利用は、制作工程全体の管理を伴う

生成AIを使用することは、何を入力し、どの結果を選び、どのように修正し、誰が確認し、誰の責任で公開するのか、その全工程を管理することまで含まれます。 
 まずは、自社で生成AIを使っている工程を洗い出し、入力、確認、承認、記録のどこに抜け漏れがあるのか、点検をおこないましょう。 
 最初から完璧な体制を整える必要はありません。実際の運用によって見えてきた課題を反映し、技術や制度の変化に合わせて基準を更新していくことが大切です。その方が、固定的なルールを増やすよりも、実態に即した運用として機能します。 
 
また、現場が判断に迷ったときに、誰に相談し、どの部門が判断するのかを明確にしておくことも重要です。
陥りがちなのは、ルールを整えること自体が目的になってしまうことです。 
 大切なのは、現場が安心して生成AIを活用し、問題が起きた場合にも制作過程を確認し、落ち着いて対応できる土台を作ることです。 
 
今回の事例が示したのは、生成AIを使う側の理解と企業の制作管理が追いつかなければ、完成度の高い表現の中にも重大な問題が紛れ込むという現実です。 生成AIを使うことと、生成AIに任せることは同じではありません。 最終的な公開責任は、これまでと変わらず、企業とその判断を担う「人」にあります。

この記事の執筆者

藤井 正則のプロフィール写真

藤井 正則

フランス生まれ。欧州のメジャー映画配給会社に13年間在籍し、映画製作・配給やCM制作の現場において、渉外業務と契約法務の両面を担当。複数言語環境および異なる商習慣のもと、フランス共和国弁護士(兼 欧州弁護士 / 仏英・仏独)として活動し、常に最適解を追求する「クリエイティブ専門弁護士」としての経験を積む。 2019年より都内法律事務所にて外国法弁護士として勤務し、2022年に旧アイレップ(現 株式会社Hakuhodo DY ONE)に法務局の責任者として入社。2023年10月より「クリエイティブ法務」サービスを立ち上げ、広告・表現内容に関する全件審査を、法律とクリエイティブの両視点から一気通貫で対応中。 現在は、日本語・英語・中国語の各種契約書(米国各州法・中国法・英国法ほか)にも対応し、多言語・多法域にわたる広告・契約実務を担う法務スペシャリストとして活動。

関連記事

セミナー

メルマガに登録する

Newsletter

メールマガジンでは、企業のマーケティング戦略立案や日々の業務に役立つ、「驚き」と「発見」に満ちた最新情報を定期的にお届けしてまいります。
受信を希望される方は、フォームからご登録ください。

ブログ一覧へ戻る