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2025年度の執行事例から読み解く景品表示法の「歩き方」

執筆者
早崎 智久
この記事は約1分で読めます

クリエイティブに関わる法律、特に、広告実務において避けては通れないのが「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」です。景品表示法をはじめとした法律は生活者を守る大切なものですが、広告制作の現場においては「表現の自由を制限するもの」にもなりえます。しかし、Hakuhodo DY ONE の専門組織であるクリエイティブ法務では、景品表示法を、広告という荒野を安全かつ大胆に進むための"「地図」であり「羅針盤」"であると再定義しています。

本連載では、広告業界の第一線で戦うマーケターやクリエイターの皆様に向けて、景品表示法をはじめ、薬機法、著作権法といった「クリエイティブの盾と矛」になる法律を解説していきます。第1回となる今回は、最新の2025年度の景品表示法違反事例を徹底分析し、なぜ違反が起きるのか、その構造的なメカニズムに迫ります。

地図としての景品表示法:なぜ「攻め」のために法が必要なのか

目的地へ向かうとき、地図があれば最短ルートを選べますし、険しい山や深い河をあらかじめ察知して回避することができます。ただ、広告という世界を地図を持たずに進めば、いつの間にか「修正」の森で迷子になり、最悪のケースでは「多額の課徴金」という崖から滑落し、クライアント企業の「ブランド毀損」という取り返しのつかない傷を負うことになります。

一方で、広告会社やクリエイティブ制作現場においては、安全な平地(=何のフックもない無難な表現)だけを歩いていては、生活者の心に届くクリエイティブは生まれません。私たちが目指すのは、「エッジのしっかり効いた表現(山や河)」に挑みながらも、確実に安全な道を見極めて、クライアント企業と共に目的地へたどり着き、生活者の心に届けることです。

景品表示法は、「邪魔者」ではなく、生活者の「当たり前の期待」を守るための法律です。生活者を騙し、誤解させ、困惑させる広告を排除することにより、結果として誠実なクリエイティブが評価される土壌を作っているもので、広告もまた、この「当たり前の期待」に対して届けるものです。この「地図」を使いこなすことができれば、法的リスクを恐れて委縮することなく、むしろ自信を持って「攻め」の表現を提案できるようになります。

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2025年度 違反事例の傾向と“構造的背景”

消費者庁は、先日、2025年3月以降の景品表示法に基づく違反事案の概要を公表しました。違反による措置命令・課徴金納付命令の動向を見ると、広告のプロフェッショナルが肝に銘じておくべき「現在地」が見えてきます。

違反件数と執行の厳格化傾向

2025年3月から2026年3月までの違反総数は41件(商品広告19件、サービス広告22件。確約計画が認定された事案も含めています)。注意が必要なのは「課徴金納付命令の事案」です。課徴金納付命令は12件下され、そのうち7件が1000万円以上、うち4件は5000万円以上で、1億円超えも2件、最高額は1億7262万円に達しました。
2024年の景品表示法改正により、消費者庁は課徴金の算出がよりスムーズにおこなえるようになっています。そして、ここでは皮肉な現実が突きつけられます。「良い広告(=売れる広告)」であればあるほど、もしそこに法的な不備があった場合、売上額に比例して課徴金は跳ね上がります。 つまり、クリエイティブの成功が、そのまま事業者の致命傷になり得るというリスクの構造があるのです。

事業者の顔ぶれと対象の広がり

摘発された事業者には、誰もが知る大企業やそのグループ会社が多く含まれています。これは、「無理に売り上げを上げようとする中小企業や一部の悪質な業者が摘発されているだけ」という認識が完全に誤りであることを示しています。当然、これらの広告には広告会社が関与していたケースも少なくないでしょう。

また、対象となった商品/サービスには、サプリメントや化粧品、エステといった定番のものから、マスク、空気清浄機、おせち料理、料理の宅配サービス、太陽光発電、放送事業者が主催するイベントまで多岐にわたります。「最近はこのジャンルが危ない」といった局地的な警戒ではなく、「あらゆる広告が常に監視されている」という前提に立って改めて考える必要があります。

 違反類型別に見ると、優良誤認表示が23件、有利誤認表示が15件、ステルスマーケティングが7件で、うち複数の違反類型があるとされたものも4件あります。一つの違反疑惑から、その後の調査で他の違反も発見されてしまうこともありますし、たまたま一つの違反をしてしまったというよりも、いくつもの違反を重ねてしまう事業者のコンプライアンス体制自体に問題があることも示しています。

※出典:消費者庁「景品表示法に基づく法的措置件数の推移及び措置事件の概要の公表」(令和8年4月末公表のもの)

三大違反類型の「なぜ起きるか」メカニズム解説

誰もが知る事業者なら広告規制に対応できる体制もあるはずですし、広告を配信するまでに多くのプロが関わっているはずです。それなのに、なぜ、このような違反は繰り返されるのでしょうか。ここで、2025年度の主要な違反類型から、クリエイティブの現場に潜むリスクの正体を暴きます。

 優良誤認表示:クリエイティブの「盛り」が閾値(しきい値)を超える瞬間 

優良誤認表示は、商品やサービスの内容を実際と異なるものや、事実に反して競合他社よりも著しく優れていると見せかける違反です。2025年度は23件と、依然として最多の違反類型です。

① 効能効果・性能・実績の虚偽誇大表示(14件)
この23件のうち、半数以上の14件は、商品の効能効果、性能や、会社の実際の実績よりも多く見せかけた表示が占めています。

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  • 発生する要因

    クライアント企業は、商品・サービスの魅力を生活者に伝えたいので、その良いところを広告会社の担当者に伝えます。そして、クリエイターは、クライアントの期待に応えようと、その商品やサービスの魅力をより強く伝えようとするために「最大級表現」や「強調表現」を好みます。このようにして、広告では多かれ少なかれ誇張された表現が生まれます。
    良くみせようとすることのすべてが悪いわけではないのですが、誇張によって生活者に与える「期待感」が、クライアント企業の保持する「エビデンス」を超えた瞬間に優良誤認表示となります。

  • 現場のメカニズム

    クリエイターが、クライアント企業から提示された資料や説明を「そのまま信じて」しまい、「一般的な生活者の感覚で、この広告表現を裏付けるものと言えるか?」という視点が欠けている場合に発生します。これは、クライアント企業の求めに応えようと、善意から強い表現になってしまうことも含め、生活者の立場や視点、気持ちが二の次になってしまっていることを意味します。

  • 「普通に考えて、そんな魔法のような効果があり得るか?」という素朴な疑問を持つことです。広告会社の立場であっても、クライアント企業に対して「この表現を支える根拠は、生活者が納得できるレベルのものか」を問い直す勇気が、結果としてクライアント企業を守ることになります。また、「この表現は、生活者にそのまま届けて良いのか」という意識も大切です。この意識を持ちながら、生活者に強く魅力を伝える表現を生み出すことはできるはずです。

② No.1表現(4件)
効能効果などの虚偽誇大表示に次いで多かったのが「No.1表現」の有利誤認表示です。
「顧客満足度No.1」「売上No.1」といった表現は、生活者にとって依然として強力なフックになります。競合商品との差別化をしたいクライアント企業にとっても、生活者に是非とも伝えたいポイントです。しかし、根拠が無いとき、根拠にならない調査結果にもとづくとき、優良誤認表示になります。

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  • 発生する要因

    「とりあえずNo.1と言っておけば売れる」という安易なマーケティング判断と、調査会社の形式的なデータが結びついたときに起きます。形式的なデータの内容をきちんと吟味せず、データ=根拠と思い込んでNo.1表現すると、摘発となります。

  • 現場のメカニズム

    No.1表現には強い広告効果があるので、クライアント企業にも現場にも、この表現を使いたいという強い気持ちがあります。そのため、本来は「この商品は売上No.1だから、これをアピールしよう」となるべきなのに、「No.1と表現したいからなんとか根拠を探そう、作ろう」という思考のまま、安易に信頼できない調査会社に依頼し、無理矢理、根拠=「調査結果」を用意する、という逆転現象が起きているケースも存在します。

  • 回避のポイント

    まずは、本当に「No.1」と言えるものがあるかどうかを確認することです。そのうえで、注釈での根拠記載は必須ですが、記載する前に、調査結果を確認し、その調査に客観性があることを確認してください。No.1といえることがはっきりしないときに、調査会社に依頼することは自由ですが、アンケート調査を実施するときも、どんな内容を質問するのか、その質問の回答結果がよかったときにも、No.1といえるような回答結果=根拠になるのか、をあらかじめ確認することが必要です。

③ 初出店表示(1件)
件数は1件でしたが、特に注目すべきは、放送事業者が主催したイベントでの「初出店」表示の違反です。広告主(イベントの主催者)側が、出店者の過去の実績を十分に確認せずに「初」というキャッチコピーを採用してしまいましたが、実際には、過去にも出店歴があり、「初」が虚偽だとされた事案です。

  • 発生する要因

    大級表現と同様に、「日本初」「初出店」といった「初」という表現も、生活者にとってはフックとなる表現です。ただ、「初」というのは「過去に一度もなかった」という意味なので、本当にそうなのかの確認が必要です。「日本初」という表現なら、日本中の、しかも過去のことまで確認しなければいけません。そのような緻密で徹底した調査を踏まえて、言い切れる状態でない限り、かなり違反リスクの高い表現になります。

  • 回避のポイント

    「事実関係の確認」というクリエイティブ以前の基本動作が、スピード感のある現場では疎かになりがちです。特に「初」「唯一」といった事実に依拠する表現は、裏取りがすべてで、場合によっては膨大な調査が必要になります。「初」といった表現を使おうと考えるときは、その手間をおこなう覚悟も必要です。場合によっては、膨大な調査の必要性を想定し、あえて「初」表現をしないという判断も現場に求められます。

有利誤認表示:数字と期間の「うっかり」が招く不信感

有利誤認表示は、商品やサービスの内容ではなく、価格などの取引条件を、事実に反して、または競合他社と比較して有利に見せかける違反です。2025年3月から2026年3月までの間に15件が発生しています。

①虚偽の期間限定
この15件のおよそ3分の2にあたる9件は、「今だけ半額!」「セール4月10日まで」と謳いながら、実際には、設定された期日以降も同じ条件で販売し続けるケースです。

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  • 発生する要因

    故意によるケースを除けば、運用型広告などで「表示内容と配信スケジュールの不一致」という、配信運用のミスから発生することが多いことが特徴です。この類型は、当初は何も問題が無いのに、時が経過して「記載された日付」が過ぎ、これに気付かずに配信を続けてしまうことで、違法な有利誤認表示になる、という点がポイントです。

  • 回避のポイント

    広告を出した瞬間の適法性だけでなく、「いつまでこの広告出すか」という出口戦略を含めた、クライアント企業と連携した運用管理が不可欠です。

②二重価格表示
次に違反が多かったのが、違法な二重価格表示のケースの4件です。二重価格表示とは、「通常価格1,000円→特別価格500円」といったよくある表現で、価格が2つ(この例では「通常価格」と「特別価格」)表示されています。

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  • 発生する要因

    二重価格表示にはいくつかの類型があるのでケースごとにさまざまですが、違反が多いのは「通常価格」「定価」という「過去の価格」と比較するタイプです。「通常価格」としての販売実績がない(または極めて短い)のに、安さを強調するために架空の価格を設定するケースが多いです。

  • 回避のポイント

    公式サイト等で、その通常価格が「直近で一定期間(原則として過去8週間のうち4週間以上など)」販売されていたかを広告会社側でもクロスチェックすべきです。また、クライアント企業にもこのことを伝え、その価格で販売していた正確な期間を確認してもらうことで防ぐことができます。

ステルスマーケティング(ステマ):善意の「お客様の声」が牙を剥く

ステマ規制は、2023年10月に規制が導入されましたが、2025年度は過去最高の7件の摘発がありました。

そして、そのうちの5件は、サクラによる投稿ではなく、「SNS上の本物のユーザー投稿を自社サイトやLPに掲載した」ケースです。つまり、事業者は、虚偽の意見を捏造したわけではありませんでした。

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  • 発生する要因

    この違反が起きてしまうのは、ステマ規制のルールを正しく理解していなかった、ということに尽きます。 
    ユーザーが自主的に投稿した内容であっても、事業者がそれを選択し、自社の販促ページ(LPなど)に掲載し、内容の一部を編集した瞬間に、それは、「自主的な投稿」から「事業者の表示=広告」へと性質を変えます。つまり、これを転載するときは、「広告」だと分かるようにしないとステマになります。

  • 回避のポイント

    LPに利用者の声を掲載する際は、単に転載するのではなく、「弊社が選定・編集して掲載しています」といった関係性の明示(広告であることの表示)をすることが必要になっています。2023年の同じケースでは大きく報道もされましたが、その事例から学んでいない事業者、クリエイターが多いことを物語っています。

まとめ:クリエイティブの「自由」は「ルール」の上にある

2025年度の違反事例が物語るのは、景品表示法のリスクが巨大化しているという現実です。高額な課徴金は、レピュテーションリスクに留まらず、マーケティングの成功がそのままクライアント企業の財務的リスクにも直結する状況を生み出しています。

しかし、冒頭でお伝えした通り、景品表示法は決してマーケターやクリエイターの敵ではありません。

  • 「生活者を騙さない」という誠実な気持ち
  • 「正しい根拠に裏打ちされている」からこその強い説得力

  • 「運用まで責任を持つ」というプロ意識

これらを持ち合わせることで、法律はマーケターやクリエイターを、そして大切なクライアント企業を守る最強の武器になります。地図を正しく読み解き、どこまでが安全で、どこからが挑戦なのかを正しく理解している人こそが、これからの時代、真に「強い表現」を生み出すことができますし、その道筋こそが、これまでも優れたマーケターやクリエイターが歩んできた道なのです。

次回の連載では、実務にも大きな影響を与えている2024年に施行された「改正景品表示法」の概要と、万が一の際に事業者を守るために新設された「確約手続き」について解説します。リスクを回避し、さらに一歩先へ進むための具体的な方策を、一緒に考えていきましょう。

この記事の執筆者

早崎 智久のプロフィール写真

早崎 智久

地方の大手法律事務所で弁護士業務全般を経験後、2018年に弁護士法人GVA法律事務所に入所、スタートアップ起業や上場企業の新規事業に関するジェネラルコーポレート、ファイナンス、事業のリーガルデザインなど幅広く対応し、サービスの拡大、多数のIPOやMAをサポートする。
専門分野は医療法・医師法・薬機法などの医療関係法に加え、医療広告・薬機広告、景表法などのマーケティング法務。2023年から弁護士法人GVA法律事務所パートナーとして従事。
2025年よりHakuhodo DY ONEに参画し、藤井と共にクリエイティブ法務およびMAESTROの推進を担当。主な著書に『Q&Aでわかる 医薬品・美容・健康商品の「正しい」広告・EC販売表示』(共著/技術評論社)

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