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企業間データコラボレーションが切り拓く、次世代マーケティングの可能性

執筆者
榎本 亮太
この記事は約1分で読めます

プライバシー規制やブラウザ・OSの制約により従来型アドテクノロジーを用いたマーケティング手法が機能しにくくなっている中、マーケティングの高度化や顧客体験向上への外部データ需要は高まり続けています。
こうした状況において有効な選択肢が、企業が保有する1st Partyデータを信頼できるパートナーと連携し、価値創出につなげる「企業間データコラボレーション」です。これは次世代のマーケティング競争力を左右する重要な戦略になりつつあります。

本記事では、企業間データコラボレーションの代表的なユースケースを通じて、得られるメリットと導入時の懸念に対する対処法を整理します。あわせて、生活者にとっての価値やAIエージェントによって広がる展望も紹介します。

デジタルマーケティングの転換点

インターネット広告やデジタルマーケティングを取り巻く環境は、かつてない変革期を迎えています。GDPR、CCPA/CPRA、日本の改正個人情報保護法といった規制強化に加え、ブラウザ・OS事業者による技術的な規制やプライバシー保護技術の進展により、従来のアドテクノロジーを用いた顧客行動の計測や追跡は急速に困難になっています。
DMPやDSPを活用した横断的なデータ統合と精緻なターゲティングという、長年マーケティング担当者が依拠してきた手法は、今や大きな制約を受けています。しかし、企業のデータニーズは衰えるどころか、むしろ高まる一方です。

高まるデータニーズと直面する限界

マーケティング活動の高度化、顧客体験の向上、新規事業開発——こうした経営課題に取り組む上で、データは不可欠な経営資源となりました。特に自社だけでは得られない「外部データ」の価値は極めて高いと言えます。

自社の顧客がどのような商品やサービスに関心を持ち、どのような購買行動をとっているのか。競合他社の動向は?市場全体のトレンドは?——こうした問いに答えるには、自社の1st Partyデータだけでは限界があります。その一方で、規制強化により3rd Partyデータの活用は制約を受け、ウォールドガーデンと呼ばれる巨大プラットフォームへの依存度は高まっています。 

共創へのパラダイムシフト:企業間データコラボレーション

こうした状況を打開する鍵として注目されているのが、企業間のデータコラボレーション——すなわち、信頼できるパートナー企業と1st Partyデータを相互に連携し、補完し合う関係の構築です。
欧米市場では、この動きはすでに一般的なものとなりつつあります。小売企業とメーカー、メディアと広告主、金融機関とフィンテック企業など、業種や業態を超えた企業同士が、クリーンルームと呼ばれる安全なデータ連携環境を通じて、互いのデータ資産を持ち寄り、新たな価値を創出しています。01_企業間データコラボレーションが切り拓く、次世代マーケティングの可能性

広告主間のデータコラボレーション:補完し合うエコシステム

まず注目すべきは、広告主企業同士が互いのデータを連携させる動きです。
たとえば、自動車メーカーと保険会社がデータを連携させれば、車の購入検討者に最適な保険プランを提案できます。旅行会社とクレジットカード会社が協力すれば、旅行傾向と決済データを組み合わせた精緻なマーケティングが可能になります。食品メーカーと飲料メーカーが購買データを突き合わせれば、相互に補完的な商品提案やクロスプロモーションを実現できます。
04_企業間データコラボレーションが切り拓く、次世代マーケティングの可能性こうした業種を超えた企業間連携により、単独では見えなかった顧客の全体像や購買パターンが浮かび上がります。自社の顧客が「どのような人物像で、何に興味があり、どんな課題を抱えているのか」をより立体的に理解できるようになるのです。
米国では、複数の小売チェーンが購買データを匿名化して統合し、メーカーに対してより包括的な市場インサイトを提供する取り組みも始まっています。また欧州では、金融機関同士がデータを共有し、より精緻な与信モデルや不正検知システムを共同開発する事例も増えています。

リテールメディアの台頭:小売とメーカーの新たな関係

特に急成長しているのがリテールメディアです。前述の通り、小売企業が持つ購買データという独自資産を活かし、メーカーに対して広告配信だけでなく、効果測定やインサイト提供までをセットにした高付加価値サービスを展開しています。
米国ではWalmart Connect、Target Roundelなどに代表される小売企業のデータを起点としたサービスが複数展開され、メーカー企業(広告主)との新たなコラボレーションを実現し大きなビジネスに発展しています。

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インターネットメディアの新たな役割:コンテキストデータという資産

この企業間データコラボレーションの潮流において、インターネットメディア(媒体社)もまた重要な役割を担います。
従来、メディアのビジネスモデルは広告掲載面の販売が中心でした。しかし今、メディアが提供できる価値はそれだけにとどまりません。独自のコンテンツやコンテキストに触れたユーザーに関する「ユニークなデータ」こそが、新たな競争力の源泉となっているのです。
育児情報メディアを熱心に読んでいるユーザー、不動産投資の専門メディアで物件情報を比較検討しているユーザー、旅行メディアで特定の地域の情報を繰り返し閲覧しているユーザー——こうした「どのようなコンテンツに、どのように接触しているか」という情報は、広告主にとって極めて価値の高いインサイトです。

•    ライフステージメディア:妊娠・出産、子育て、住宅購入、退職後の生活設計など、人生の転換期を捉えたデータ
•    ライフスタイルメディア:趣味嗜好や価値観に紐づく、深い興味関心のシグナル
•    専門情報メディア:金融、不動産、ヘルスケアなど、検討度合いや購買意欲の高さを示すデータ
06_企業間データコラボレーションが切り拓く、次世代マーケティングの可能性

国内では、大手人材会社が複数のメディア横断で蓄積した活動履歴や取引データを統合し、広告主向けの分析・企画提案サービスへと発展させています。こうしたメディアのデータは、広告主の1st Partyデータを補完し、より深い顧客理解を実現する貴重な接点情報となるのです。
メディア企業にとっては、ログインユーザーを増やし、1st Partyデータを充実させることが今後の競争力を左右します。会員限定コンテンツやパーソナライズ機能の提供、ポイントプログラム、複数サービス横断でのID統合など、継続的な関係構築への投資が求められます。

三者が織りなすデータエコシステム

重要なのは、広告主間、小売とメーカー、メディアと広告主といった連携が独立して存在するのではなく、相互に補完し合うデータエコシステムを形成しつつあることです。
たとえば、自動車メーカー(広告主A)が自社CRMデータをもとに、旅行メディア(パブリッシャー)の閲覧データと連携し、「アウトドア志向の強い顧客層」を特定する。その知見を保険会社(広告主B)と共有し、共同でキャンペーンを展開する——こうした多層的な連携により、単独では実現できなかった価値創造が可能になります。
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日本企業が抱える懸念と、その解決策

一方、日本ではこうした企業間データ連携に対して、依然として慎重な姿勢を示す企業が少なくありません。「顧客データを外部と共有して大丈夫なのか」「個人情報保護法に抵触しないか」「情報漏洩のリスクは」などの疑問や不安の声は、ごく自然なものです。
しかし重要なのは、適切な技術と運用ルールを整備すれば、法令を遵守しながら安全にデータ連携を実現できるという事実です。具体的には以下のような対策が有効です。

技術的対策
•    データのハッシュ化や暗号化による匿名照合
•    クリーンルーム環境での分析(生データを移動させない)
•    アクセス制御とログ管理の徹底

法務・運用面の対策
•    データ利用目的の明確化と契約での担保
•    個人情報の該当性判断と適切な取り扱い設計
•    第三者提供に関する同意取得(必要に応じて)

実際、国内でも先進的な企業では、こうした仕組みを導入し、成果を上げ始めています。大手小売チェーンがメーカーと購買データを安全に共有し、売上を大幅に伸ばした事例や、複数の事業会社が顧客の行動データを突き合わせ、新たなサービス開発につなげた事例などが報告されています。
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生活者にとっての価値

企業間データコラボレーションは、決して企業側の都合だけで推進されるべきものではありません。適切に実施されれば、結果として生活者に大きな便益をもたらします。

小売企業とメーカーがデータを連携することで、より精緻な需要予測が可能になり、欠品や過剰在庫が減少します。金融機関と保険会社がデータを共有すれば、個々人のライフステージに応じた最適な金融商品の提案が実現します。メディアと広告主のデータ連携は、興味のない広告の氾濫を減らし、本当に必要な情報を適切なタイミングで届けることにつながります。

育児に悩んでいる人に育児用品の情報を、住宅購入を検討している人に住宅ローンの選択肢を、旅行を計画している人に最適なプランを——こうした文脈に沿ったコミュニケーションは、押し付けがましい広告ではなく、生活者にとって価値ある「情報提供」となるはずです。

つまり、データ活用による最適なコミュニケーションや提案は、生活者により良い体験と価値を提供するのです。もちろん、その前提には透明性の確保と、プライバシー保護への真摯な取り組みが不可欠です。

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AIエージェント時代の可能性

さらに展望すれば、AIエージェントの浸透は、企業間データコラボレーションをより安全で効率的なものへと進化させる可能性を秘めています。
従来のデータ連携では、データそのものを移動・コピーすることが避けられず、そこに情報漏洩のリスクや管理コストの増大といった課題がありました。しかしAIエージェントが企業間の「仲介者」として機能すれば、最低限のデータ移動で、必要な分析や判断を実行できるようになるはずです。

たとえば、顧客の購買履歴は小売企業のシステム内に、商品の在庫情報はメーカーのシステム内に、メディアの閲覧履歴はメディア企業のシステム内に置いたまま、AIエージェントがそれぞれにアクセスし、最適な広告配信や商品提案を実行する——そんな未来が見えてきています。データは各社が管理し続けながら、その価値だけを安全に共有できる世界です。

当社でも、企業間のデータ連携を支えるための基盤・環境整備を推進しています。Hakuhodo DY ONEでは2025年8月、AIと広告主アセットの連携でマーケティングプロセス全体を自動化・高度化し、 事業成長を支援するための仕組みとして独自のAIエージェントサービスONE-AIGENTの提供を開始しました。企業間のデータ連携において、Rawデータ(生データ)を直接共有することなく、AIエージェントを介して必要な情報や分析結果のみをセキュアに連携させる「Zero Data Sharing」を含めた環境整備を進めています。

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 Zero Data Sharingによるデータ連携 

今、求められる戦略的判断

”クッキーレス時代”や”プライバシーファースト時代”と言われるようになり久しいですが、データ活用のあり方が問われる昨今、マーケティング戦略において企業が問われているのは、巨大プラットフォームが提供する価値を最大限に活かしつつ、信頼できるパートナーとの共創によって、自社の1st Partyデータから新たな価値をいかに生み出すかという戦略的判断です。

もちろん、巨大プラットフォームの価値が失われるわけではありません。しかし、自社の1st Partyデータという貴重な資産を、閉じ込めておくだけではもったいない。適切なパートナーと安全に連携し、互いに補完し合うことで、ウォールドガーデンでは実現できない独自の価値を生み出すことができるのです。

広告主にとって、他の広告主やメディアが持つデータは、自社の顧客理解を深め、新たなビジネス機会を発見する補完材料となります。
小売企業にとって、メーカーとのデータ連携は新たな収益源であり、戦略的パートナーシップの基盤です。
メディアにとって、自社の独自資産であるコンテキストデータを活かした新たな価値提供の道が開けます。
そして生活者にとって、より適切で価値あるコミュニケーションを受け取れる環境が整います。

企業間データコラボレーションは、もはや「できたらいい」という選択肢ではなく、デジタル時代の競争を勝ち抜くための必須戦略となると考えています。法令遵守と技術的対策を前提に、信頼できるパートナーとの共創に踏み出す。その一歩が、次世代のマーケティング競争力を決定づけるはずです。

この記事の著者

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榎本 亮太

2024年 Hakuhodo DY ONEに入社。GA4関連の導入支援に従事したのち、現在はDMP「AudienceOne®」の企画・開発進行を担当。あわせて、プロダクトの情報発信および活用促進に向けた企画を推進している。

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