2024年改正景品表示法の全体像と実務対応〜何が変わり、何を求められるのか〜
- 執筆者:
- 早崎 智久
前回の記事「2025年度の違反事例から読み解く景品表示法の『歩き方』」では、直近1年間に消費者庁が公表した事例の動向から、景品表示法という「地図」を読み違えたときに何が起きるのか、その構造的なメカニズムを解説しました。
誰もが知る大企業でさえ摘発を免れず、課徴金は1億円を超える事案も例年生まれている――これが今、広告の現場が置かれている「現在地」です。
連載第二回目となる今回は、前回の最後に予告した通り、その「地図」が2024年にどうアップデートされたのかを解説します。
▼前回の記事はこちら
今回取り上げるのは、2023年に成立し、2024年10月1日に施行された、「令和6年改正景品表示法」です。施行から2年弱が経過し、改正法での運用が定着してきたように思います。
近年の景表法改正は、規制を強める傾向が目立っていましたが、この改正は、これまでの行政からの処分という形だけではなく、今後の違反を予防するために「事業者が自ら誠実に是正する道」を新たに用意した改正です。前回の記事で紹介したように、2025年度だけで違反総数は41件、課徴金納付命令は12件※にのぼり、そのうち複数の類型にまたがる違反も少なくありませんでした。こうした「一つのほころびから、いくつもの違反が見つかる」事例が多い構造的な問題に対して、法律自体が、事業者に「気づいたときにどう向き合うか」を問う仕組みへと整備したのが、今回の改正ともいえます。2024年改正景品表示法の内容を正しく理解することは、そのままクライアント企業を守る力になります。
※出典:消費者庁「景品表示法に基づく法的措置件数の推移及び措置事件の概要の公表」(2026年4月末に公表のもの)
2024年改正景表法の改正事項の概要
近年、広告の世界では、デジタルマーケティングの普及に伴い、違法・不当表示のおそれがある広告の増加・巧妙化に加え、従来には見られなかったような悪質な広告も出現しています。さらに、SNSの普及によるステルスマーケティングの増加や、越境取引の拡大といった多くの環境変化が起きています。このような変化を受け、景品表示法は以下の三つの視点から改正されました。
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事業者の自主的な取り組みの促進(確約手続の導入、返金措置の弾力化)
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違反行為に対する抑止力の強化(課徴金の見直し、罰則の拡充)
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円滑な法執行実現のための制度整備(国際化対応、適格消費者団体との連携)
前回の記事で見た「良い広告ほど課徴金が跳ね上がる」という皮肉な現実をふまえると、この改正は、事業者に対して「気づいた時点でどう動くか」という選択肢の重みを、これまで以上に明確にしたものだといえます。放置すればするほど傷が深くなる一方で、正直に是正すれば別の道が開ける――そうした「アメとムチ」の両方を用意することで、景品表示法は、事業者の行動そのものを誠実な方向へ導こうとしています。
以下では、この三つの視点に沿って、各改正事項を一つずつ紐解いていきます。単に「何が変わったか」を知るだけでなく、「なぜその改正が必要とされたのか」「現場は何をすべきか」まで踏み込んで解説します。
各改正事項の解説とコメント
⑴ 事業者の自主的な取り組みの促進
①確約手続の導入
解説:
違反の疑いのある表示(広告)について、消費者庁から指摘を受けた事業者が、自ら是正措置計画(確約計画)を策定して申請し、消費者庁がその内容を「実効性がある」と認定した場合には、措置命令や課徴金納付命令をおこなわないこととする制度です(景表法第26条~第33条)。課徴金納付命令と同様に独占禁止法のルールを景表法にも設けたもので、2025年8月には、確約計画認定の初めての事例も公表されました。その後、2026年2月までに計8件が認定されています。
コメント:
この制度は、「違反が指摘されればただちにペナルティが課される」というだけでなく、事業者が自ら是正措置を講じ、再発防止に取り組むことを制度として後押しするものです。前回お伝えしたように、違反の多くは、故意による悪意からというよりも、クライアント企業への熱意や現場の善意のなかで、生活者の視点がうっかり置き去りにされることで生じています。
確約手続は、違反の疑いがある表示について、事業者が是正措置と再発防止策を示し、その実効性が認定された場合に、措置命令や課徴金納付命令をおこなわない制度です。つまり、確約計画では問題となった表示を修正するだけでなく、今後の再発防止に向けた社内体制の整備まで求められることになります。「広告を出して終わり」ではなく「最初から運用まで責任を持つ」というプロ意識そのものが、法的にも「組織の体制」として要求されるようになったといえます。私たちクリエイティブ法務でも、クリエイティブが作られる段階から、万が一のときに堂々と説明できる「正しい根拠」を積み上げておくサポートをすることが、これまで以上に重要になっていると感じています。
また、確約計画が認定されるかどうかは、事業者が示す是正措置や再発防止策に実効性があると消費者庁が認めるかどうかによります。これは、日頃から誠実に生活者対応や表示管理をおこなってきた実績が、この場面でもものを言うということです。普段の管理体制が十分ではない事業者には、確約手続という「是正のための選択肢」を選びにくくなるという構造は、広告実務に携わる私たちにとっても重い示唆となっています。
②返金措置の実施による課徴金額の減額制度 電子マネーでの返金が可能に
解説:
課徴金納付命令の対象となった事業者が、対象商品・サービスを購入した生活者に一定額を返金した場合、その返金額を課徴金額から控除できる制度(返金措置)について、これまでの金銭による返金に加え、第三者型前払式支払手段、いわゆる電子マネーなどによる返金も認められるようになりました(景表法第10条)。ただし、利用地域の制限などにより生活者が実質的に使用しづらいものは対象外とされ、金銭と同等に使いやすいことが要件とされています。
コメント:
この改正は、従来の返金措置が金銭による返金に限られていたため、事業者が返金先となる口座情報を取得するなど、実施に相応の手間がかかっていたことを踏まえたものです。これは、被害回復を求める生活者にとっても重要な改正です。問題となった表示について、事業者が真摯に対応し、速やかに返金措置を講じた場合には、その返金額を課徴金額から控除できる仕組みが、より利用しやすくなったといえます。ただし、その電子マネーは「生活者にとって実質的に金銭と同じ価値があること」が厳しく問われます。つまり、形式的に返金をおこなうだけでは足りず、被害を受けた生活者に実質的な利益が届くかを検討する必要があります。この場面でも「生活者のことを考える」という制度趣旨への理解が、事業者には求められています。
⑵ 違反行為に対する抑止力の強化
①課徴金の売上推計規定の整備など
解説:
事業者が課徴金の算定に必要な資料を提出しない場合や、提出された資料に欠落がある場合、消費者庁は違反期間中の売上額を正確に把握できず、課徴金額を算定できないという問題がありました。この改正により、必要な資料が十分にそろわない場合でも、当該事業者が保有する他の資料や、競合事業者、取引先などから得られた資料をもとに、不明な期間の売上額を合理的に推計できる規定が整備されました(景表法第8条4項)。あわせて、過去10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者が違反を繰り返した場合には、課徴金の算定率が通常の3%から4.5%に引き上げられました(景表法第8条第5項)。
コメント:
これは「資料を出さなければ課徴金を軽くできる」という抜け道を塞ぐための改正です。また、この売上推計規定の存在は、今後は、資料の不備や説明の曖昧さがある場合に、この法律による「合理的な推計」により、実際以上に不利な推計を招くリスクがあることも意味します。とりわけ、自社の資料だけでなく外部の資料も推計の基礎となり得る点は、事業者にとって見過ごせないポイントです。ただ、ここで本当に問われているのは、日頃から表示の根拠資料や販売実績を、いつでも合理的に説明できる形で整理・保管しておく体制です。まさに「正しい根拠に裏打ちされている」ことの重みが、平時の資料管理という一見地味な実務にまで及んでいることを示す改正だといえます。前回の記事で紹介した通り、2025年度は最高額1億7262万円という課徴金納付命令も出されていますが、今後は課徴金額がさらに高額になっていく可能性もあります。
そして、広告会社にとっても、これは他人事ではありません。キャンペーンごとの表示根拠や配信実績を、クライアント企業と共有できる形で記録しておくことは、いざというときの備えになります。同時に、自らが「運用まで責任を持つ」パートナーであることを示すことにもつながります。
②罰則規定の拡充 直罰化(100万円以下の罰金)
解説:
改正前は、措置命令に違反した場合に限り刑事罰の対象とされていました。改正後は、故意に優良誤認表示または有利誤認表示をおこなった場合、措置命令を経ずに、直接刑事罰(100万円以下の罰金)の対象となりました(いわゆる「直罰規定」、第48条)。つまり、故意に優良誤認表示や有利誤認表示をすることは、今回の改正で「犯罪」になりました。そして、実際にそのような表示をした者が処罰されると、その者が所属する法人に対しても、罰金刑を科する制度(両罰規定)も新設されています(第49条)。なお、指定告示にもとづく表示は直罰の対象外です。
コメント:
措置命令という行政手続とは別に、刑事罰が科され得るということは、行為の「悪質性」そのものが独立して問われる時代になったということです。前回の記事で取り上げた、効能効果の表示、No.1表現、「初」をうたう表現、期間限定表示、二重価格表示などについても、根拠がないと認識しながら、あるいは十分な確認をしないまま不当表示をおこなった場合には、直罰の対象となる可能性があります。ここでもう一度強調したいのは、「生活者を騙さない」という誠実な気持ちは、単なる企業倫理の話ではなく、事業者個人・法人の刑事責任にも直結する現実的なリスク管理そのものになったということです。
なお、直罰の対象となるのは「故意」におこなわれた場合に限られ、うっかりミスにまで刑事罰が科されるわけではありません。しかし裏を返せば、「根拠がないと薄々気づいていながら、確認を怠って表示してしまった」というケースも、故意(未必の故意)と評価されるリスクをはらんでいます。広告制作の現場のスピード感のなかで、「たぶん大丈夫だろう」という思い込みをどれだけ排除できるかが、これまで以上に問われることになります。
⑶ 円滑な法執行実現のための制度
①外国執行当局に対する情報提供制度
解説:
越境ECの拡大など事業活動の国際化を踏まえ、消費者庁が外国の執行当局に対して、必要な情報を提供できる制度が新設されました。海外に拠点を置く事業者や、海外事業者が関与する表示についても、法執行の実効性を確保する狙いがあります。
コメント:
国際協力体制の整備は、悪質な事業者の『逃げ得』を許さないための地ならしであり、海外に拠点を置く事業者が関与する不当表示についても、法執行の実効性を高める基盤となっています。 あらゆる事業形態が等しく法の適用対象であるという前回の記事の指摘――「あらゆる広告が常に監視されている」という前提――が、制度面からも補強された形です。グローバルに展開するクライアント企業をサポートする立場としても、拠点や取引形態にかかわらず「運用まで責任を持つ」という姿勢が、これまで以上に問われることになりますが、適正に表示をおこなっている国内事業者にとっては、より「フェア」な環境へと改善されたということになります。これは、海外事業者との競争条件の公平性を高めることにもつながります。
②適格消費者団体による開示要請、企業の応諾努力義務
解説:
改正により、適格消費者団体は一定の場合に、事業者に対して表示の裏付けとなる合理的根拠資料の開示を要請できるようになりました。
適格消費者団体は、消費生活相談などを通じて、多くの生活者の声を把握する立場にありますので、事業者には、この要請に応じる努力義務が課されます(景表法第35条)。あくまで「努力義務」であり、開示を拒んだからといって直ちに法的制裁が科されるわけではありませんが、消費者庁への通報や調査のきっかけになり得る点は無視できません。
コメント:
これまで、表示の合理的根拠資料の提出を求められるのは、消費者庁からの調査時に限られていました。しかし今後は、民間の適格消費者団体からも開示を求められうる立場に変わります。つまり、行政だけでなく市民社会からも「その表示の根拠は何か」を問われる機会が増えるということです。No.1表現の違反事例のように、「合理的な根拠として十分とはいえないデータ」を後ろ盾にした表示は、こうした開示要請の場面で真っ先にほころびが露呈します。「行政も忙しいだろうからこの程度の違法なら問題ない」といった、規制する行政だけを見て、本来向き合うべき生活者を無視した姿勢はもはや通用しなくなりつつあるともいえます。裏を返せば、日頃から「正しい根拠に裏打ちされている」表示づくりを徹底していれば、こうした要請にも堂々と、そして誠実に応じることができます。開示要請への対応そのものが、事業者の信頼性を対外的に示す機会にもなり得るのです。
最後に
2024年改正景品表示法は、課徴金や罰則の強化、適格消費者団体による開示要請制度の導入などを通じて、法執行の実効性を高める改正です。
一方で、確約手続や返金措置の弾力化により、事業者が自主的に是正し、被害回復に取り組むことを後押しする仕組みも設けられました。前回の記事で見たように、違反の多くは、故意の悪意ではなく、生活者の視点が抜け落ちた瞬間に生まれます。だからこそ、この改正が示すメッセージも明確です。
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気づいたときに、自ら積極的に正す誠実さ(確約手続)
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日頃から根拠を積み上げ、説明責任を果たせる体制の構築(売上推計・開示要請)
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故意による不当表示を防ぎ、広告の制作・運用に責任を持つこと(直罰)
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拠点や取引形態にかかわらず、適正な表示を徹底すること(国際化対応)
これらはすべて、私たちが繰り返しお伝えしている三つの軸――「生活者を騙さない」誠実さ、「正しい根拠に裏打ちされた」説得力、そして「運用まで責任を持つ」プロ意識――そのものです。
制度が変わっても、広告づくりの現場で起きる悩みの本質は変わりません。「もっと魅力的に伝えたい」というクライアント企業の期待と、「これは本当に生活者に届けて良い表現か」という誠実さのせめぎ合いです。今回の改正は、そのせめぎ合いに正面から向き合った事業者を後押しする一方で、目を背けた事業者には、これまでよりも重い代償を科す設計になっています。
次回の連載からは、景表法の現状から少し離れて、実際のルールがなにを事業者に求めているのか、そしてその背景にある、守らなければならない生活者の姿とは何かを解説します。
この記事の執筆者
早崎 智久
地方の大手法律事務所で弁護士業務全般を経験後、2018年に弁護士法人GVA法律事務所に入所、スタートアップ起業や上場企業の新規事業に関するジェネラルコーポレート、ファイナンス、事業のリーガルデザインなど幅広く対応し、サービスの拡大、多数のIPOやMAをサポートする。
専門分野は医療法・医師法・薬機法などの医療関係法に加え、医療広告・薬機広告、景表法などのマーケティング法務。2023年から弁護士法人GVA法律事務所パートナーとして従事。
2025年よりHakuhodo DY ONEに参画し、藤井と共にクリエイティブ法務およびMAESTROの推進を担当。主な著書に『Q&Aでわかる 医薬品・美容・健康商品の「正しい」広告・EC販売表示』(共著/技術評論社)
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